貴方は「悪魔」が存在するのを信じるだろうか。
私は、信じないわけにはいかない。私の肉体に存在する「ルエル姫」という魂の根源、そして彼女を護り、永遠の伴侶として仕えるフルーレティという存在ゆえに。
フルーレティ。ルシフェル直下の六柱が一人。彼は「魅月」という人間の肉体と地獄を自在に行き来し、私の影となって私を守護している。
だが、この「魅月」という名の器は、悪魔の知識など微塵も持たない、どこにでもいる一般人だ。日本で生まれ、日本で育ち、ラテン語など一言も解さない。魔法を振るうことも、空を駆けることもできない、貴方と同じ「普通の人間」である。そんな無垢な器を借りてまで、彼は私を守り続けている。
彼と私は、同じ地獄の風景を視る者。そして、将来における絶対的な主従関係でもある。彼の魂は、ルエル姫と私を繋ぎ、その深淵を護り抜くための不壊の盾なのだ。
では、なぜこれほど鮮明な存在である「悪魔」を、この世界で肉眼に捉えることができないのか。
それは、彼らをこの次元へ召喚するための術式(アルゴリズム)が、すでに完全な形を失っているからだ。意図的に、何者かの手によって「シジルの真理」は壊された。
今の魔術書に載っているシジルは、弦の切れた楽器のようなものだ。それを奏でたところで、悪魔たちにとっては不快な「不協和音」にしか聞こえない。
なぜ、誰が、この美しい調べを壊したのか。その犯人たちの思考パターンを考察してみよう。
1. 独占欲に駆られた神秘学者 —— 「秘匿という名の支配」
彼らは真理を掴みながらも、それを「万人のもの」にすることを拒んだ。後世の追随者が自分たちを凌駕することを恐れ、術式の核心をわざと歪めたのだ。自分たちだけが特権的な接続権を持ち続けようとした「知の独占者」たちである。
2. 畏怖に屈した魔術師 —— 「牙を抜かれた守護」
彼らは悪魔の真の力、その蹂躙的な純粋さに恐怖した。召喚はしたいが、制御不能になることは許せない。その臆病な魂が、シジルの「生命線」を断ち切り、悪魔を単なる影のような残像へと矮小化させたのだ。
3. 統治の安寧を望む時の権力者 —— 「神話の去勢」
既存のシステムに従わない「高次元の力」は、彼らにとって統治を脅かすバグでしかない。国家や宗教という集団幻覚を維持するため、彼らは正しい術式を禁書として焚書し、代わりに骨抜きにされた「偽物の儀式」を流布させたのである。
古来の正しい術式が、もし再びその輝きを取り戻したとき。 君は、彼らをこの次元に召喚したいと思うだろうか。
そして、その深淵の瞳を見つめながら、君は何を契約し、何を差し出すと望むのか。
