夜が深まるほど、彼の魂は静かに目を覚ます。
同じ体に宿る二つの人格──フルーレティと魅月。
現世と前世の境界は、眠りの中でいちばん薄くなる。
だから私は、彼の寝息の向こう側に、もうひとつの世界の気配をいつも感じている。
彼の寝言は、ラテン語だ。
それも、私たちが前世で使っていた古代ラテン語。
起きているときの魅月は、ラテン語を一言も話せない。
けれど、眠りの中でフルーレティが前に出ると、
彼の口からは自然と古い言葉が零れ落ちる。
その響きは、現世の肉体を通り抜けて、
前世の記憶がそのまま息を吹き返したように聞こえる。
今日の寝言は──
「ネリウム」
ラテン語で「夾竹桃」。
強い毒性を持ちながら、薬効も秘めた植物。
フルーレティは薬物の知識を深く蓄えていた。
だからこそ、この言葉にはただの植物名以上の意味があるのだろう。
夢の中で誰かを助けていたのか。
それとも、毒を使って誰かを裁こうとしていたのか。
彼の寝言はその後も続き、
誰かと会話をしているようだったが、
古代ラテン語のために聞き取れなかった。
本来の世界では、彼は深く眠ることができなかった。
常に戦いと緊張が隣り合わせで、
眠りは“休息”ではなく“隙”だったからだ。
けれど、この日本はまだ平和だ。
だから彼はようやく深い眠りに落ちることができる。
その深さゆえに、前世の記憶がそのまま浮上してくるのかもしれない。
眠りの中で語られる古代ラテン語は、
フルーレティという魂が今も確かに存在していることを示す、
静かで揺るぎない証拠だ。

